2006年01月05日

おおデジャブ

米フィデリティ 苦情処理のセジウィッグを742億円で買収

米保険業界のクレーム処理だけで約25億ドルの市場規模だってさ。ビッグビジネスですなーと思うし、こういうアウトソーシングは日本でもこれから増える一方なのは間違いない。
でも、一日中謝ってばかりでそれがあしたもあさっても来月も来年も続く人の精神の健康状態にはきちんと配慮しろよな、とYahoo!BBのコールセンターでバイト君だったことのある私は思う。

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そういやblog界隈でやけに評判のいい毎日新聞の「縦並び社会」(特に「派遣労働の闇 」)を読んでも、確かに年末年始に希望に満ちたカラ元気の記事ではなく、きっちり今のこの国の暗い現実をルポしていることは「いい仕事してますね」とは思う。

だが完全匿名の、純粋な意味での労働力として「バイト君」時代を過ごしたことのある人間としては「ああそうだったよ」以外の感想は出てこない。
これを読んで何かしらの感慨を覚えられる人はハッピーもしくはラッキーで、それはいいことだと思う。いやイヤミではなく。しなくていいつらい思いはしないいほうがいい。

でもこれからその「しなくていい」はずの思いをせざるをえないようになる人が千万単位で増えるわけだ。それが痛いほど(注射針を何十回も刺されるほどに)わかっているから、もう4、5年は全力でがんばってセーフティーリードを確保しなきゃなあと切実に思うわけである。
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2005年11月30日

バイト君の日々  サクラ編

はいどうも。


書くことがないわけではないのだが、それが万一blog検索などされたら誰がバラしてるのかあっさり分かってしまい、今後の仕事に差し障りがあるような話だったりするので困る。

仕方ないんで、ものすごく久しぶりに「バイト君の日々」を復活させることに決定。

以前書いたのは治験という「おかしな経験系」の話だが、今回もそのラインの話。
仕事内容は「サクラ」である。

サクラというと出会い系なり風俗系なりの、もともとの需給のバランスが崩れている業種に於いて足りない供給を補充する、という印象がある。数からいえば男性よりも女性の方が就業機会が圧倒的に多いはずの仕事だ。なのに私にこんな話がきたのだ。おりょ。



登録制のバイトをやってる時、こんなやりとりがあった。


「スーツ着ていく現場なんですけどどうですか?」


「あー、あんまスーツ好きじゃないんですよねーー」


「そうですか・・・でもね、ただ2時間座ってるだけでいいんですよ。重い物運んだりあいそ笑いしたりとか一切ないし」


「・・どういう仕事なんですか?」


「サクラです」


「ええー、ヘンな商売の片棒担いだりするのやですよー」


「いや、そういうものではなくて。むしろ賑やかしというか」


「はぁ」


「不動産関係のセミナーなんですけど、あんまり人が集まらなかったらしいんですよ。で、これはシャレにならん、もうちょっと席が埋まってないとみっともない、ということで注文が来たんです」


「へー、面白そうですね」


「でしょでしょ。パッと行ってしばらく座ってパッと帰ってくるだけですから」


などと丸め込まれて行くことになった。場所は新宿。


待ち合わせ場所には20人を越えるスーツ姿の男達が。しかし不動産関係のセミナーのサクラにしては、濃い茶髪でひとりごとを言ってる挙動不審の奴やらスキンヘッドのやたらガタイのいい奴やら多士済々というかかなり不自然というか、とても保有不動産を有効活用するためのノウハウを知りたいといった雰囲気ではない。大丈夫なのかしらコレで。


会場近くの公園まで行って、1分おきぐらい間を空けて一人ずつビルに向かう。一気に入ると不自然だからと。そりゃそうですね。


受付に行き、事前に受け取っていた招待状を渡すと「〇〇様ですね」と確認される。その名前を暗記するようにしつこく言われていたのだ。講演会場の机に置いてあるアンケート用紙にはその名前だけ書いて、質問には答えず白紙で出すように、と。


テーブルと椅子が並べられている。150人程が座れるかなり大きな会議室だ。
「会場に入ったら適度にバラけて座るように」との指示で、さっきまで一緒にいた連中とは離れて座る。開始時刻にざっと数えてみると、70〜80人は来ている。うち20数人がサクラだ。いや、もしかしたら我々とは別口のサクラも送り込まれているのかもしれない。じいさんやおばさんは違うだろうし、カジュアルな格好で来ている人も違うはずだ。しかしそれ以外のスーツを着た男は全員怪しいといえば怪しい。


開始時刻になり、アメリカの財閥系銀行に勤めていたとかいうお笑い系の経済評論家の、まるで面白くない話を聞く。このセミナーは客寄せのために無料なのだが確かにこれではタダでも客は来ないだろう。


予定通り2時間で終了。とりたてて問題もなし。


そのまま誰とも口をきかずバラバラに会場を出て最初の集合場所に戻り、仕事に行ってきたことを確認してすべて完了。


うーん。面白い仕事だったかどうかといえば、面白くはなかった。そういう仕事ではない。
ただラクだったというだけだ。



そのあと新宿駅西口地下のC&Cカレーショップで食べたカレーが辛かったことぐらいしか印象に残っていない。おいしかったですよ。
posted by かおる at 05:04| 東京 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | バイト君 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月09日

バイト君の日々   臨床治験ボランティア編6

あとはもうほとんど書くことが無い。もう一度薬を飲んでその血中濃度の減少スピードを採血によって測定するという、以前にやったことをもう一度繰り返すだけである。


2週間の入院(もしくは軟禁)生活を終え、解放される日がやって来た。被験者達は恒例になった朝の血圧測定を済まし、食事をしてから午前10時過ぎの退院時間に合わせてノロノロと荷物をまとめた。まとめるといっても簡単な身の回りの品を鞄に放り込むだけであるが。

ついにその瞬間がやってきた。詰所に行ってなにやら領収書のようなものにテキトーにサインをし(もう内容なんかどうでもよかった)、封筒を受け取ってそそくさと玄関に向かう。一刻も早くここを離れたいが、ちゃんと目的のカネを手にしたかどうか確認したい。廊下に立ち止まり、今受け取ったばかりの封筒の中身をあらためる。
うむ、確かに約束どおりのカネが入っている。大丈夫だ。

カネについては行き先はもう決まっている。いろんな支払いをしたらあらかた消えてしまう。だから手元にあるうちに満足いくことに使おう、と思った。

まず考えたことは、健康にもかかわらず2週間病院食を食べていたわけだから当然豪華な食事である。普段そんなに油っこいものを食べてはいないから病院食でもさほどのつらさを感じたわけではなかったが、やはり体が欲していたのであろう、とんかつを食べたくなった。ここで心のおもむくままに行動しておいたらよかったのだが、なにしろ開放感と自由に使えるカネがある。
もっと値の張るものを食べたい」と思ってしまった。

そして池袋にある評判のいい店ははどこだろうと考えて向かった先が、池袋駅西口の東京芸術劇場近くにある小さなフレンチレストランであった。普段ランチにフレンチなんて女性の巣みたいなところに行くことなんてまず無いのだが、テンションが上がっていたのだろう。
わくわくしながら注文し、ワインも頼み、丁寧に焼かれた魚を食べ、小さなパンをちぎっているうちにようやく間違いに気付いた。
料理はおいしいのである。おいしいんだが、そのとき私が食べるべき料理ではなかった。
とんかつをガツガツ喰らってごはんをおかわりしたかったのだ、とようやくわかった。遅すぎる。繰り返すが料理はちゃんとうまい店である。単に私の選択ミスであった。

不案内な池袋で妙なテンションのままカネを持ってウロウロしていてもろくなことが無いと思い至り、さっさと中央線に乗るために新宿に向かった。

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これが私が1度だけ経験した臨床治験ボランティアという仕事である。
システマティックで、よくよく考えてみればとりたてて変わったところの無い仕事であった。
労役と引き換えに賃金を得ることと本質的な違いがあるかどうか。
「同じではない」と言いたい気もするのだが、自分が好きでやってるわけでもない仕事を時間を売るような形で働いている多くの労働のありようとの決定的な違いは感じられなかった。

自分が興味を持てる仕事をすること、そしてその仕事に何かしらの自分の考えを込められること。

この2つが無い場合、たとえステイタスの高い仕事であろうと、収入が多かろうと、労働法に守られる正社員であろうと、実質的には奴隷と同じだ。



私はまだまだ戦わなければいけない。


体制と、ではない。



自分自身とだ。

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ぐわーーー、実に去年の9月13日から始めたものがようやく完結した。
肩の荷が下りた。
もうシリーズで書くのはやめよう。書き終わるまでずっと気になる。

あーやれやれ。
posted by かおる at 15:01| 東京 ??| Comment(0) | TrackBack(0) | バイト君 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月05日

バイト君の日々   臨床治験ボランティア編5

ずっとパジャマやスウェットを着ていた8人の被験者が、揃って病院にやってきた時の服装に着替える。10日ぶりに外の空気を吸えるのだ。引率者として男性1人、ナース2人に不審な男性8人の計11人。やな集団である。

中央線の人間である私は池袋の街自体が珍しい。P' PARCO前で30分間の自由行動を許可されたが、何か買い食いしていいわけでもなく、あまり遠くに行くわけにもいかない。所在なげにエスカレーターに乗ってぶらぶら時間を潰すことしかできなかった。


集合時間に従順に戻ってきたモルモット達は、先頭の引率の男性と最後尾の2人のナースにはさまれて映画街に到着した。
病院側の3人がなにやら相談している。どの映画を見るのか決めていなかったらしい。
結局鑑賞することになったのは「JSA(原題Joint Security Area)」だった。
この奇妙なチョイスの理由を今初めて考えてみたのだが、「男ばっかりだし、まあ戦争物がいいんじゃないの。知らんけど」といったところではないか。

詳しいストーリーについてはこちらを読んで欲しいが(細いディティールを説明するとなるとあまりにも長くなってしまうので)、確かに面白い作品だったと思う。
思えばこれが私が初めて見た韓国の作品であった。これ以降見てないけど。
主人公は最近女性週刊誌によく取り上げられているイ・ビョンホンだったんだなあ。

それまでにも韓国のミュージックビデオをスタープラスで見ていたりして、韓国国民あるいは朝鮮民族が「度を越した悲劇好き」であることを知ってはいた(私はこれを過剰な民族意識、つまり自己愛の表れだと思っている)。
だがそれにしたって主人公が最後の最後に拳銃で自殺してチャンチャン、ってもうちょっと余韻ってものはねえのか、とちょっと辟易しながら映画館を出たのだ。


そしてこの後に、2週間の入院生活中で最も印象深い出来事が起きたのである。

映画が終わり、バラバラに座っていた被験者達がロビーに集まった。引率者も含めた全員で映画館を出る。もうあとは病院に戻るだけだ。これからまたしばらく「何も無い日」が続く。なんとなくみんなうなだれながらトボトボ歩いていると、誰かが口火を切った。
A「今の映画さー、いつの時代の話なの?」

えっ?

B「あー、そうだねー」
C「んーー、戦争の話だからさー」

A「あー、うん」
B「そう、戦争戦争」
C「前の戦争の頃の話じゃないかなあ」

ええっ?

A「あー、ねーー」
B「うん、やっぱねー」
C「それはやっぱ、ねー」


誰も分かってなかった。
1時間50分も見た映画が、現代の朝鮮半島を描いた映画だという事が分からないのだ。

普段映画を見る時、全く何の予備知識も無く行く事はまず無いだろう。俳優なりストーリーなりに興味を持つから映画館に行くのだ。
確かに映画を見る環境としてはちょっと変わっていたかもしれない。

それにしても舞台がいつの時代かわからないって、それはなんにもわからなかったってことではないのか。


しみじみ思った。

「寝てるだけで金を稼げる」と、肉体を差し出すようなバイトに来るような人間の知的レベルはここまで低いのだと。
そして自分はまぎれもなくその一員なのだと。


病院に帰り、いつものスウェットに着替えた。夕飯までにはまだ時間がある。
ベッドに寝ているのが嫌で、部屋のすぐ前にある休憩室に行った。本棚に並んだ漫画本を手に取る。
カイジ―賭博黙示録
「限定ジャンケン編」をパラパラめくりながら、ここにこんな作品を置いているのはちょっと皮肉がキツ過ぎるのではないか、と思った。



窓の外を見たくなった。

曇り空であることは分かるが、嵌め込まれた擦りガラスに阻まれて何も見えなかった。
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2005年06月03日

ようやく完結へ

下らんトラブルがあったため、10日間の徹夜仕事はクレームをつけた上で断った。
不愉快な話はなるべく書かない方向でやっているので詳細は書かないが、仕事をしてると相手のミスでこちらが迷惑かけられた挙句、言った言わないの水掛け論になり結局泣き寝入り、なんて理不尽なことが起きる。
ちきしょう、と怒りながらも日常というのは続いていくのである。


そんなことがあったからか「バイト君の日々」にケリをつける気になった。

あの、肉体を提供するだけの匿名仕事を経験する過程で感じた「ないがしろにされるということ」のニュアンスを生々しく思い出したからだ。


次回、きちんと思い出し、きちんとまとめるつもりである。
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2004年12月30日

バイト君の苦しみ

うう、時間ができれば書けるようになると思ってたのに。
なかなかその気になれない。

明日だ。明日書こう。夜は格闘技中心にテレビを見るのでそれまでになんとか。

いや、年が明けて三が日まででいいやという気持ちになっている。
9月13日から始まったシリーズがここまで終わらないとは。もういやだ。未完で終わらせるのもいやだ。

やっぱ来年ってことでひとつよろしく。
posted by かおる at 20:54| 東京 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | バイト君 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年11月16日

バイト君の日々   臨床治験ボランティア編4

針は刺す時が痛いだけで、刺さっている状態なら痛くない。
他の人はいちいち刺されて痛い思いをしているが、私は蛇口から出しているようなものだから(「ねじ式」みたいだ)呑気なものである。
その余裕が「なんか部屋で辛そうにしてる人がいますよ」と言わせたのかもしれない。

それからが大騒ぎだった。
ナースが走って様子を見に行き、詰所に報告しに来る。
それを受け、詰所に来る事ができないと判断し急遽その人に限っては大部屋で寝たまま採血することに決定。
採血の時間に間に合うようにナースが器具を持って走る。

なにしろ依頼主の製薬会社の人間がそばで見ているから治験を実施する方も必死である。

私が採血を終え部屋に帰ると3〜4人のナースがかかりきりで準備をしていた。
どうやら何十回も針を突き立てられることへの恐怖感で精神の均衡が保てなくなったらしい。
私も嫌な思いをしていたし、人によっては内出血してひじの裏が赤黒くなっていたようだ。「さっさと蛇口つけてやりゃいいのに」と思った。

案の定私と同じ器具を使ったようで、その後はスムーズに事が運んだ。



この本番が終わった後はしばらく普段の生活に戻る。
体調を整え、2度目の本番に備えるわけだ。

その間はわりと自由に過ごせる。

酒は飲めないが、タバコは非常階段に出て吸える。さすがに非常階段に出る扉のカギは閉まっていない。
ただ、私はタバコを吸わないので関係なかったが。
酒が飲めないのは辛いかと思ったら、全然辛く無かった。
アル中ではないことがわかった。
今はどうか試した事は無いので分からないが。


入院から10日ほどたち、外出の日がやってきた。
大部屋に長い事閉じ込められストレスも溜まっているだろうから外の空気も吸わせてやろうというおぼし召しである。
引率の男性が一人、ナースが二人(もちろん私服で)、我々が買い食いなどしないように監視しながら数時間の街歩きである。

映画を見に行くらしい。

何日も前から楽しみにしていた、この2週間の入院期間で最大のイベントである。


そしてこの外出の時、私にとって最も印象深い出来事が起きたのだ。



(もうちょい続く)
posted by かおる at 21:24| 東京 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | バイト君 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年11月15日

バイト君の日々   臨床治験ボランティア編3

8人の大部屋に案内された。
全員揃ったからといって自己紹介するわけでもない。
みんな黙ってTシャツとスウェットといった楽な服に着替え始めた。

居住スペースはこの大部屋と、部屋を出たところにある6畳ほどの広さにテーブルと14インチのテレビと漫画を置いた本棚のある奇妙な空間。同じフロアにトイレとシャワー室が2つあり、ナースの詰所もある。他のフロアに行ってはいけない。

ここで2週間過ごすのだ。

不思議と不安は無かった。
コミュニケーションをとることがめんどくさいと思う人達のオーラが伝わってきたからだろうか。
ここにまとまった時間を提供できる人達は、そういう意味でもかなり限定された人なのかもしれないな、と思った。

私を含めて。



毎日の規則正しい生活の内容は、通常の回復期の入院患者と同じだ。
なにしろ健康な人間ばかりが集められているのだから、特に変わった事をするわけでもない。
5日後の、薬を投与されて採血される日までは何もする事が無い。

この、何もしない準備期間に自分がどう過ごしたのかという記憶がほとんど無い。
思い出そうと頑張ったのだが思い出せない。
忘れてしまったというより記憶に残るような事が何一つ無かったからではないかと思う。
昨日と今日と明日で過ごし方が似たようなものだった場合、そしてそれがずっと続いた場合、記憶には何も残らない。

今の自分はどうかな、と考えた。



その日がやって来た。
朝、いつものように体温と血圧を計り朝食を食べた後に1錠の薬を飲む。
これから15分に一度ひじの内側から採血されるのだ。

詰所に行き、5分おきに被験者が薬を飲んでゆく。
部屋に帰ってベッドに横たわる。
しばらくすると詰所から呼ばれ、椅子に座って順番を待ち、順番がやってきたら腕を差し出し採血される。

私は血管が出にくくて若いナースが針を刺しても血が出てこない。
2,3回失敗し、ようやくキャリアの長いナースに替わってくれた。

採血ができてホッとし、部屋に帰ってひじの内側を揉みながらベッドに横たわり、10分もするとまた呼ばれて採血の順番を待つ、ということを繰り返すのだ。

詰所では3時間近く5分おきに採血し続けるわけで、てんてこ舞いの忙しさだ。
それはわかるが、こっちはまた下手なナースに当ってしまい、何度も針を刺され、何度も失敗する。たまったものではない。

3,4回ほど採血した時、ナース達が何か相談を始めた。そして私に「こっちの方が楽だと思うので」とひとつの提案をしてきた。

ひじの裏に針を刺しっぱなしにするのだそうだ。その針をテープで止める。外に露出している側にまた針を刺すところがあって、そこに注射針を刺して血を抜くのだという。
いちいち針を刺して血管を探すより一度うまく刺してしまえば蛇口のように血が取れるというわけだ。

私としては願っても無い事で「そんな便利な物があるんなら早く使ってくれよ」と思った。
もう10回ぐらい失敗しているのだ。
この後も30分おき1時間おきと間隔を空けながら一日に15回ほど採血するのがわかっているのだから最初からそうすればいいのに。
これを使うと余計にコストがかかるなら使わないのだろうか?

ともあれ「また失敗するのだろうな」と思いながら採血に向かう嫌な思いをしなくて済むだけで、かなりプレッシャーから解放された。
誰だってあと何十回ひじの裏に針を突き立てられるのか見当もつかないと思うと暗い気分にならざるを得ないだろう。


ようやく採血も軌道に乗り、大部屋に帰って横たわっていると、何か部屋の様子が変だ。
何だろう、と体を起こすと斜め向かいの小太りの男がうめき声を上げている。
汗をかいている。少し震えてもいるようだ。

周りの人達もその異様な状態に気づき、言葉には出さないが心配そうに見ている。

そのうちまた、私の名が呼ばれた。




(まだ続く)
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2004年11月09日

完結編予告(えーっと、がんばります)

朝4時に起きて45分に家を出たら真っ暗で下弦の月が見事でそのまま12時間拘束されて解放されたのは18時でとっても辛いですとか言うな。
明日は6時半起きで今日より楽ですとかいって自分を慰めろ。

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わざわざカテゴリに「バイト君」を作ったのに9月14日を最後に続きを書けてないというのは、振り返るには早すぎるということなのだろう。
「治験」の検索でくる人もいるので、早く「臨床治験ボランティア編」だけでも終わらせなきゃとずっと思っているのだが、書く気になれない。あまり振り返りたくない。

今とあの頃とどこが違うか。
今は「バイト君」ではなく、固有名詞で呼ばれる存在になってはいる。
でも、それだけの事だ。

それは確かに主観的には大きな違いなのだが、客観的に考えるとさほど変わってはいない。
それまで同様、あっという間に時間がたっているというほど夢中になれる仕事ではなく、「早く終わんないかな」と思いながら仕事をしている。

仕事に主体的に関わっていないというのが致命傷だが、つまらん仕事にそれなりに主体的に関わって、ついやる気になってしまうのもそれはそれでもっと馬鹿馬鹿しい、とか考えてるからダメなんだよ君わあぁぁ。

とか自分に突っ込む日々である。

「若者の特権」なんて言葉がある。
それがあたかも至上の価値であるかのように。
だが、若かりし日々のビンボー生活をそれなりの懐かしさと愛おしさを持って振り返ることができるのは、それこそリタイヤした人(ないし老人)の特権だろう。


私も早くリタイヤしたいとは思っているけれど、今は全くそういう状況ではない。
キツイ時期を余裕を持って振り返る事はできない。
なぜなら明日、またそんなキツイ状況に否応無しに直面させられるかもしれないからだ。


ため息をついても結局明日は来るのだから、笑って立ち向かう方がいいのだろうと思う。


ともあれ「バイト君の日々」は週末に完結させます。

いやマジで。
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2004年09月14日

バイト君の日々   臨床治験ボランティア編2

一体なぜこんなバイトをやろうと思ったのか。

第一に怪しいバイトをやってみたいという好奇心。
それに、寝てて大金を稼げるならラッキーという気持ちもあったろう。

だがどこに応募すればいいのかわからない。
今みたいにネットで検索すればそれなりに手がかりが得られるという環境ではなかった。
紹介が必要だという噂も聞いたが、そんなバイトを紹介してくれるような都合のいい知り合いはいない。

やむを得ず電話したのがあるCRO(医薬品開発受託会社)である。
これは電話帳で調べた。
いきなり「治験のボランティアやりたいんですけど」と言われた方も驚いたようだ。
そこはデータをとりまとめて製薬会社に提出するような仕事をしているらしく、
「うちはそういう体を張る系の仕事はしてないんですけどねー」と言われた。
しかしその若い人は周りの人になにやら聞いてくれてある電話番号を教えてくれた。
「ここで紹介してくれますよ」と。


電話してみると妙にていねいな物腰のおじさんが名前や住所を聞いてきて、「仕事があったら連絡します」と言った。

数日後電話がかかってきた。
指定の日に池袋の某病院に行って説明と身体検査を受けるようにとのこと。


慣れない池袋の路地を曲がり、ようやくたどり着いたその場所は意外や結構大きな病院だった。
しかし私が行くべき所はそこではなく、隣の小ぶりな建物だった。どうやら研究所らしい。
小奇麗な建物に入り、会議室に案内される。そこで10人ほどの参加希望者と共に説明を受けた。

入院期間は2週間、飲み薬が体に入ってからどれぐらいのスピードで溶け、消えてゆくかというのを採血により確認する、というものだ。

薬を飲んでからは立て続けに15分おきに1度2時間採血。
その後30分おき、1時間おき、と間隔が開いていく。
1日に15回前後の採血があるらしい。

それを2週間のうちに2回やる。普段の体調もデータとして記録しないといけないので、2回の本番の為に2週間もかかる、ということらしい。

報酬は拘束1日当たり約2万円。

なにやら細かい字で書かれた誓約書のような物を書き、この仕事(というか人体実験)に参加する事が決まった。


開始の日がやって来た。

着替えを詰めた小さなかばんを手に、私は研究所の門をくぐった。
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2004年09月13日

バイト君の日々   臨床治験ボランティア編1

過去にいろんなバイトをし、いろんな現場に行ったが、その中でも特に変な体験を綴るこのシリーズ。といってもそんなにたくさんは無いが。

最底辺の仕事に行くと、現場において人格は無い。
名前で呼ばれる事は無く常に「バイト君」である。
建設現場などでは年下のヤンキー丸出しの職人からもこう呼ばれる。
その先輩が「年上なんだからバイトさんって呼べよ」とか言ってくれても余計にミジメだったり。

早くレギュラーの仕事につかなくちゃという励みになりました、
とか無理やり良い思い出として振り返ってみたりもするが、
あんな日々は二度と経験したくない。

本気で不快だった10や20もある話をいちいち思い出して書くのもイヤだし読む方だって不快だろうから、ちょっと変わった経験を書いてみる。


伝説のバイト、新薬実験のモルモット、臨床治験ボランティア。


ある意味最も人格の無いバイトである。



2週間にもわたる大部屋での奇妙な日々について語ろう、と言いつつ

眠くなったんでまたあした。


す、すまん。
posted by かおる at 02:23| 東京 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | バイト君 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする