2013年04月17日

吉野家明日から値下げ、そしてさようなら牛鍋丼

吉野家は4月10日、主力商品である牛丼の価格を18日から下げることを発表した。

吉野家の商品戦略に関するお知らせ(PDF)

gyudon_130410_ph001.jpg牛肉の輸入規制緩和を値下げの理由としている。BSE騒動によりアメリカ産牛肉は03年末に輸入停止となり、吉野家は04年牛丼の販売休止を決断。牛丼屋から牛丼がなくなるという異例の事態となった。
05年12月に月齢20ヶ月以下の牛肉の輸入が認められ、06年9月から並盛380円で再開。そして今回、輸入対象が月齢20ヶ月以下から30ヶ月以下に規制緩和されたため280円に値下げ、というのが一連の経緯である。これにより牛丼並盛の価格は輸入規制直前までの01年〜04年と同じ水準に戻ることになる。

しかしこの告知ポスター。目を引きたい時に「止まれ」の赤を使うのは「注意」の黄色より目立つのはたしかだが、文字がドーンと黒でしかも上下に黒枠までつけてるものだから、どこかしら不吉なニュアンスが漂わなくもない。不祝儀じゃあるまいし。


それはともかくアベノミクスとやらの、実質金利を下げるための強制インフレ政策が発動したとたんに牛丼並盛26.3%の値下げである。この空気の読めなさ加減が素晴らしい。国家の方針に逆らったとして牛丼屋が権力から弾圧されないか心配になるほどだ。
実のところ、今回の輸入規制緩和でコストが多少は下がるにせよ、こんな大きなコストダウンができるはずもない。ではなぜ今になってこんな大幅値下げを決めたのか。実は大々的に値下げを発表した5日後の15日、吉野家は今14年2月期の連結決算が3億6400万円の最終赤字に転落すると発表している。

すき家と松屋が定価を下げる価格競争を行なっても、吉野家は期間限定のフェアを行うだけでかたくなに並盛380円を守ってきた。だがもはや悠長なことは言っておられず、適当な理由をつけて値下げして客数を増やそうというわけだ。これによりようやく落ち着いていた牛丼値下げ競争も再燃してしまうだろう。すでに値下げフェアの効果はすっかり薄れているから、外食業界では吉野家の動きを懐疑的な目で見る人も少なくない。相変わらずのズレっぷりである。


親会社の伊藤忠にも見限られた吉野家の迷走ぶりはいつも通りなのでどうでもよろしい。この小文の目的はただひとつ。望まれずに生まれ、今まさに黒歴史の闇に葬られていこうとしているあるメニューを書き残しておきたいのだ。

吉野家は主力商品である牛丼の定価を決して下げなかった。泥沼の価格競争に本格参入したあとの展開を考えた時、会社更生法を申請したトラウマが甦ってしまったのかもしれない。しかし客数は二桁減だし何もしないわけにもいかない。そうして生み出された苦しまぎれのメニューが牛鍋丼である。

価格はすき家松屋と同程度の並盛280円。肉が少ないかわりに豆腐としらたきが入っている。肉を減らしたからってそうは原価は下がらない。ただただ本丸である牛丼の価格に手をつけたくないという理由で生まれたメニューだ。しかしこの時吉野家が牛鍋丼を発売した名目は「創業111周年記念」である(PDF)。ふつうに新商品を発売すればいいのに妙な理屈をつけるのは今回と同じ。癖なのであろう。

結局追いつめられて牛丼の定価に手をつけ、牛鍋丼と同じ280円にした以上、この望まれて生まれたわけではないかわいそうな子は闇に消えてゆく運命だ。上記の赤いポスターに「牛鍋丼の販売は、材料がなくなり次第終了とさせていただきます」とある。なんだか盛り上がらない飲み会が流れ解散するみたいで哀しい。

そんなわけで昨日、久しぶりに牛鍋丼を食べてきた。平均年齢が上がる一方の日本で、ちょっと軽めの丼にはそれなりのニーズもありそうな気がしたが、吉野家にとってはあまり思い出したくない時期の思い出したくないメニューだ。黒歴史化されるのは間違いない。ウェブサイトからも消されるから、先ほどの牛鍋丼のリンクは魚拓にしておいた。確実に食べられるのは今日まで。そんなに思い入れがあるわけでもないけれど、さようなら牛鍋丼。
posted by kaoruww at 12:53| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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