2012年09月25日

尖閣諸島を取り巻いた漁船の黒幕・旺旺(ワンワン)集団と岩塚製菓について

<尖閣>台湾漁船58隻が出港 主権・漁業権を主張(毎日)
 【蘇澳(台湾宜蘭県)大谷麻由美】台湾北東部・宜蘭(ぎらん)県蘇澳鎮(そおうちん)の南方澳(なんぽうおう)港から24日午後3時(日本時間同4時)、漁船58隻が沖縄県・尖閣諸島(台湾名・釣魚台)に向けて出港した。台湾の領有権を主張すると共に漁業権の保証を目的としている。他の港から出る漁船も参加予定で、最終的には約100隻となる可能性もある。

 漁船集団は25日午前5時(日本時間同6時)ごろ、尖閣諸島の領海への接続水域(約22〜44キロ)内の尖閣南西約37キロに集結し、尖閣周辺を回遊して抗議活動をする計画。漁民は「尖閣上陸もあり得る」と話している。

 漁船には「私の伝統的な漁場を侵略するな」「釣魚台を死ぬ気で守る」などと書かれた横断幕が掲げられ、次々に出港した。台湾の海岸巡防署(海上保安庁)は「漁民の安全のため」として巡視船など10隻以上を護衛につけるほか、海軍艦艇も約56キロ海域で監視する。

 今回の出港は、中国で事業展開する台湾の米菓子メーカー「旺旺集団」会長で、主要メディアを傘下に置く「旺旺中時集団」会長でもある蔡衍明(さいえんめい)氏が個人名義で500万台湾ドル(約1330万円)を寄付したことで実現した。

意外なところで旺旺(ワンワン)の名前を見た。08年3月28日に当ブログでこの食品メーカーについて触れている。

岩塚製菓様にご提案(qzmp blog)

内容を簡単に紹介すると、香港株式市場にこの台湾食品メーカーの旺旺が上場したことにより、旺旺の株式5%を保有する岩塚製菓に大きな含み益が生まれた。乗っ取られかねないから上場廃止にしたほうがいいのでは、というもの。

今回のニュースを機に旺旺の現状を見てみたら、ほんの4年前とは大きく状況が変わっていた。株価のチャートを見ると一目瞭然だ。
ワンワンチャート

株価は4年で4倍ほどになり、今日の時価総額は1兆2888億円。上場時点では、岩塚製菓が保有する旺旺の持ち株比率は全体の5%だった。リリース等を見ても現在の数字が出てこないが、増え続ける保有有価証券の額を見るかぎり、安定株主として大きな株数の変動はないとみられる。持ち株比率を5%のままとすると評価額は644億円。岩塚製菓の発行済株式数599万5千株で割ると、旺旺株の評価額だけで1株あたり10,742円になってしまう。ちなみに岩塚製菓の本日の終値は2900円だ。

倒産寸前だった旺旺に岩塚製菓が技術供与をしたことについて、旺旺の蔡衍明董事長は今でも感謝しているという。
 
天安門事件をキッカケに、中国共産党は怖くないと確信した――蔡衍明・旺旺集団董事長(東洋経済)
 岩塚製菓がなければ、今の旺旺はない。もともと私たちの宜蘭食品は魚の缶詰などを作っていたが、赤字で悲惨な状態だった。それが1983年に岩塚と提携して煎餅の生産を始めて以来、順調に利益を上げ続けている。旺旺の社名も83年から使い始めた。

 最初に岩塚を提携のお願いで訪ねたとき、私は24歳。岩塚の当時の社長(故・槇計作氏)は40歳年上だった。正式に提携を断られたとき、私は日本に駆けつけ、社長にあらためて直談判した。そのときは工場の中で話をしたが、社長は工場にある神棚に供えられたお酒を私に飲ませてくれた。そしてこう言った。「これは金儲けのお酒。あなたがそこまで言うなら提携しましょう。失敗したら、私は社長を辞めます」。
 
 その社長を、私たちは「旺旺の父」と呼んでいる。彼からは「あなたとなぜ提携したのか、自分でもよくわからない。まさに縁としかいいようがない」と言われたことがある。旺旺の経営理念「縁、自信、大団結」の縁は、彼の言葉から取ったものだ。

中国大陸進出後は破竹の勢いで成長し、中国に106の工場と34の販社、営業所329ヶ所を展開。売上高はグリコ、明治製菓、ロッテを凌駕し、中国最大の食品メーカーになった。さらに農業・外食・ホテル・不動産・医療・マスメディアなど多岐にわたる事業展開を行う、中国有数の企業グループになっている。

前述のとおり29年前から岩塚製菓と、昨年は丸紅と包括提携を結ぶなど日本との関係は深い。しかしそれはそれとして中国で事業をしている台湾人なのだから、中国を向いた考えを持つことは当然ないし必然ということだろう。だが漁船団に個人的に寄付をしてまで尖閣行きを支援するというのも妙な話だ。旺旺のグループ企業である中天電視(テレビ局)に中継させるため、つまり数字の取れる番組作りと、中国政府と中国人民受けするパフォーマンスの一石二鳥という見方もある(漁船に旺旺と中天電視の旗が見える)。

政治と距離を置く経営者もいれば、積極的に関わる経営者もいるということだろう。対立を煽る行動のスポンサーになるとは残念なことだが。ただし台湾全体で抗議活動が大きな運動になっているわけではなく、突如中国や韓国のような反日国家になったわけではないということは押さえておきたい。

なにもこの文章で床屋政談をしたいわけではない。大きな含み益を持ったまま4年連続営業赤字で、旺旺からの年間6億円を超える配当収入によってどうにか黒字になっている岩塚製菓は、上場企業としてとてもアンバランスだということだ。株式を発行して設備投資をするなどの上場メリットを活かす機会もない。旺旺株式という換金しやすい巨額の資産を格安で買収できる状態が放置されたままである。4年前のエントリと結論は全く変わらないので、そのままコピペして済ますことにする。
「一刻も早くメインバンクと相談し、MBOをして上場廃止にすることを勧める」


<10月3日追記>ジェトロのサイトに、旺旺の台湾メディア支配に抗議する言論人の動きに関するレポートがあった。日本のメディアではまだ伝えられていない、たいへん興味深い内容だ。マスメディアが学生を個人攻撃するなど尋常ではない。一読を薦める。

反「旺中グループ」運動が問いかけるもの(ジェトロ・海外研究員レポート)
posted by kaoruww at 22:42| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | おかき屋さん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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