2012年07月22日

厨房(機器の導入が市場の競争条件を一気に変えるん)ですよ!

夕飯は最近開店したとんかつ屋にストアコンパリゾンに行った。この店の隣には立ち食いではないがカウンター席中心で、自販機でチケットを買うタイプの簡易型そば屋がある。このそば屋の経営が順調らしく、同じ会社が隣にとんかつ屋を出したというわけ。「そば屋がとんかつ屋を始める」というと唐突な感があるが、この2つの店には共通点がある。最新の厨房機器を導入することでマーケティング上の比較優位を築こうとしているのだ。

まず先に出店したそば屋。こちらはそばを茹でる大鍋の上に壁掛け式製麺機(たとえばこういうもの)を設置し注文を受けてから生麺を茹で、熱々の天ぷらを供する。かき揚げをのせた天ぷらそば450円。他の店と同じ価格帯だ。

立ち食いそばで使用されているそばは、小麦粉が半分以上使われているものがほとんどだ。そば粉のほうが少ないのだから「そば風味のうどん」といった方が正確なのだが、なにしろ「そば粉が30%以上含まれていればそばを名乗っていい」という規定がある。だから立食いそば屋は大手を振ってそば風味のうどんを出している。(これは生麺の場合であり、乾麺に至っては配合割合さえ表示すれば1割以下でもそばを名乗ってかまわない。<参考>食品研究者の夜食日記『そば粉が何%入っていれば「そば」といえるのか?』)

ところがこの店のそばは明らかにそば粉が多い。そば粉の含有率が低いのはコスト削減もあるが、それ以上に比率を上げると茹でた段階でそばがバラバラになってしまうからだ。そば粉を麺の形にする部分こそが職人の秘法秘伝。品書きが相田みつを風書き文字で主人が作務衣を着た小うるさそうな店があるが、あれはそば粉をつなぐ技術をようやく身につけた主人のプライドを形にした自己主張なのである。ちょっと話がそれたが、新しく開発された壁掛け式製麺機はそば粉の含有比率を高めてもバラバラにならないそばを簡単に作ることができる。前述のリンク先に詳しいが、全くの素人でも十割そばができてしまうのだから、そば職人はこれまで以上に「心がこもってる」「魂がこもってる」「歴史の味がする」と神秘主義を強調するほかないだろう。今のところこの技術革新は従来型の茹で置きを温めて出す立ち食いそば屋の競争力を落としているに過ぎないが、長期的には歴史や職人技をアピールする店・酒を飲ませる客単価の高いそば屋以外は、この機器を導入することになるだろう。

そして冒頭のとんかつ屋である。一般的なとんかつ専門店でとんかつ定食を食べると1200〜1500円ほどか。今日食べたのはこのとんかつ定食。

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値段は530円。自動フライヤーを導入しほぼアルバイトだけで回し、低価格化によって客数を増やすことによって利幅の薄さをカバーするというマーケティングだ。アークランドサービスが展開するかつやなどこの手法だけで上場企業になったようなものだし、牛丼市場で不毛な争いをしている松屋も松八というブランドでこの市場の開拓に励んでいる。

一つの地場企業が、意識してか知らずか厨房機器の発展を武器に新しい市場を取りにいっているわけだが、この2つの店は方向性が違う。そば屋の方は値段は富士そばや梅もとといった従来の簡易型そば屋と変わらないが、品質で圧倒する形で市場に受け入れられ、繁盛している。とんかつ屋の方は価格を半額以下にする典型的なディスカウンターだ。そしてあまり繁盛していない。なぜだろうか。

夏場に熱くて油っこい揚げ物は嫌われるという季節要因や、単純に商品のクオリティが低い(揚げ油の交換が遅く酸化しているからとんかつに嫌な臭いがついている・衣が硬すぎる)というこの店の事情を差し引いても、単品商売の難しさがあるのだろう。かつやも商品バリエーションが少ないため期間限定商品を多数投入しお客を飽きさせないようにしているが、そのラインナップを見るとなかなか苦しい。麻婆チキン丼など、商品開発に苦労してるんだなと思わせる。それでもこういう期間限定商品を次々に出せるのは企業としての体力があるからで、地場企業では難しい。店を次々に繁盛させるのは至難の技。商売とは厳しいものだ。

とりあえず私はあんな油を使ってる店にはもう二度と行かないわけだが、それはそれとして新しい技術の開発によって市場の風景が一変するダイナミズムは実におもしろい。天ぷら用自動フライヤーなしにてんやの成功はなく、ジェットオーブンなしにサイゼリヤのチェーン化も不可能だった。エンドユーザーを直接相手にする外食産業の日々の変化は、見ていて飽きることがない。
posted by kaoruww at 01:04| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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