その記事はこちら。
現在の「カフェ」ブームとは何か
Food-PaCというコンサル屋さんのサイトで2001年に書かれたらしいけっこう古い文章なんだが、こういうのが唐突に人気エントリーになったりするきっかけが不思議ね。
この記事のブクマの模様はこちら。
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元記事は「日本型カフェ」の短い歴史と、人気のある理由の分析といったところ。ポイントになるのは
現在の「カフェ」とは、どこを切っても金太郎アメのような、人間味を感じさせない多くの外食チェーンに暗黙の不満を持つお客たちが望む「好ましい飲食店のイメージ」を総称したものであり(略)こうした「カフェ」における唯一の共通項は「その店を作り上げている人々(=スタッフ、経営者)の顔が見える」店であるという点だ。(略)「カフェ」には、多くの既存チェーンが、店舗の「標準化」を行うという名目のもとに実質的に切り捨ててきた「人間」の存在感に満ちているのである。といったあたりか。
この文章は個人経営のカフェにとっては「そうか、やっぱりオーナーである自分の個性が大事なんだNE!もっと個性的な店にするにはどうすればいいんだろう…?」と思わせ、大手チェーンの担当者には「マニュアルを見直してみようか…なんなら中古の家具でも入れてみようか…」と内省的にさせるという、幅広い潜在顧客に対応可能なコンサル文章である。
締めの
現在の「カフェ」ブームの中で、われわれはもう一度、飲食店とはどうあるべきなのか、お客と、そこで働く人々に、飲食店は何を提供しなければならないのかを見つめ直す必要があると言えるのかも知れないも含めて、「なんか言ってるようだが実際には何ひとつ言ってない」とか思ってはいけない。ダメ!ゼッタイ!
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カフェ〜その機能と本質〜(こころ世代のテンノーゲーム)
これを読んであははと笑ったわけだが、確かに「抹茶クリームフラペチーノのトールに1ショット追加、あとストロベリーパフを」なんて注文をし終わった直後の、やりきった感あふれる人に我々がかけてあげられる言葉があるとすれば、それは「これおいしいですよね、わたしも好きです」でも「ノンファットミルクをほんの少し垂らすと最高ですよ」でもない。
「おまえそれ言いたいだけちゃうんか」であろう。上記のコンサル屋が書いた「いわゆるおしゃれなカフェ」が一定の支持を得た理由は、まさにこの「センスのいい自分」を確認するためであり、同じ店内にいる客や店員に「おしゃれ仲間である自分」を認識させるということを目的としている。
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大恐慌以前のアメリカの経済学者ソースティン・ヴェブレン(Wikipedia)は「衒示的消費」という概念を示した。それは金持ち達が豪奢な邸宅に住み派手な服を着るといった贅沢をするのは人に見せびらかすためだという主張だった。これは今ではマーケティングの古典的な考え方になっている。しかし統制志向の経済学者だったのに、のちの世で消費者心理学の大家として扱われるようになるとは本人だって夢にも思っていなかっただろう。
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「ヴェブレンが言ったのはカネがあることを人に見せびらかす消費形態のことであって、たかだか300円ほどのコーヒーや1000円ほどのランチのどこが衒示的消費なのか」と言う人もいよう。だが、私はこれもまた現代的な「衒示」なのだと解釈している。大恐慌以前のアメリカは、まさにジャングルのような弱肉強食の資本主義だった。そこでは「カネ」こそがパワーであり、憧れであり、命綱だったろう。でも今は違う。ニートでも生きてゆけ、ホームレスが糖尿になる国では「カネ」は絶対的な憧れの対象には成り得ない。例えばあのライブドア堀江氏の絶頂期はどうだったか。カネをたくさん持っていることはわかっていても、本気で憧れ、同化したいと思った人はあの当時でさえ少数だったろう。それはありていに言えば、なにかしらの「ダサさ」を感じたからではないか。
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高度消費社会に生きる人にとっての「個人が持つ力」には、「カネ」だけではなく「センス」もかなり大きな位置を占めている。だから「自分がおしゃれであることを確認すること」、また「他人に自分のセンスを認めてもらうこと」は死活問題なのである。
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「カネはないけどセンスはいい」というエクスキューズは、大学生だろうがOLだろうがフリーターだろうが十分心の支えになっている。そこに存在証明を求める者さえいる。それだけに必死だ。しかし「おしゃれであること」に彼や彼女らほどの重要性を見出さない者にとっては、ツッコミどころ満載で存在自体がギャグに見えたりもする。
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まあ分かり合えなくたっていいじゃないか、別に。
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断章形式でとりとめなくやろうとしたのに、なんとなく結論めいた方向に進んでしまった。いかん。ちょっと別方向の話を。
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はてブコメントの中に少し気になるのがあった。別に煽りじゃないですよ。「スタバやドトールなどの大手チェーンはカフェではなくコーヒーショップという名称が一番しっくりくるんじゃないだろうか」というやつ。もしかして一般的な認識の中に「カフェごはんを出すようなオサレカフェがカフェ」「喫茶店的な需要を満たすのはコーヒーショップ」みたいなニュアンスがあるのだろうか。
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外食産業的にはコーヒーショップという業態はぜんぜん違うものなのである。「ああ知ってるよ、オランダでマリファナ売ってる店だろ」というボケは無しの方向で。ダメ!ゼッタイ!
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コーヒー・ショップ(ホテル観光用語事典)
ホテル内の簡易飲料施設。多様なメニューは、ア・ラ・カルトが多く、比較的に安いスナック類が取り入れられることも多い。営業時間は朝食から夜食までと幅広く、24時間営業を行っているところも珍しくない。おかわり自由のコーヒーからこの名称が生まれた。一部ホテルでは、「コーヒー・ハウス」という名称で呼ばれる。コーヒーの提供を主とした喫茶店とは区別される。奥さん、ご存知でしたか?
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では現在日本で「コーヒーショップ」を標榜している代表的な店はどこか。意外なところだ。ジョナサンである。多くの人が「うっそー、あれはファミレスでしょ?」と言うだろう。私もそう思う。でもアレはコーヒーショップなのである。
HPのトップメッセージに「1980年に、すかいらーくグループの都市型のコーヒーショップタイプのレストランとして産声をあげました」とある。ちょっと前まで看板をはじめとするロゴにもcoffee shopとあった。今見たらCOFFEE&RESTAURANTになっているし、同じページに「ファミリーレストランのリーディングカンパニーでありたい」などと書いてあるしで、かなり世間の認識に歩み寄ったみたいだが。
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すでにコーヒーショップとは名乗っていないが、今でもその痕跡を色濃く残しているのがデニーズである。24時間営業の店が多く、コーヒーはおかわり自由。ほとんどの店でドリンクバーではなく注ぎに来てくれる。コーヒーショップは旅行者のための店だから、朝食メニューが充実している。なんだ卵1個をお好みの焼き方で100円って。ファミレスには珍しいカウンターがあるのも一人客を意識した設計だからだ。HPにはこんな目立たないところにその痕跡が残っていた。
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またしても話は変わるが、専門学校に「カフェ学科」というものができたことを知った時は、そのあまりのギャグセンスに舌を巻いたものだった。すごいと思った。しかしすぐに消えてしまうかと思ったらさにあらず、大枚はたいて勉強に来る熱心な人は後を絶たないようで、大変盛況らしい。
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カフェマニアをこじらせると、脳内にイメージした店をオーナーとして経営したくなるらしい。もちろん私は「夢を持つって素敵やん」という立場だから、とっても応援しています。精神的に。遠くから。
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「カフェ学科」でググったら、右のアドワーズにいろいろ出てきた。検索するよりこっちを見たほうが話が早い。
某教室は入学金21,000円、受講料126,000円だそうな。これで3ヶ月間に10回の講習が受けられる。1回2時間半だから25時間もカフェについて勉強できるんだよ!やったNE!
もう一つのほうを見たら卒業生の体験談が載っていたよ!大きな声で言うよ!夢をかなえるって素敵やん!その下にはバリスタカリキュラムっていうのがのってるね!泡の上に絵を書いたりするのも教えてくれるのかな?昨日の法事で親戚の小さな女の子が、最後に出てきたエスプレッソが苦くて飲めないからって泡の上にハートマークを書いて遊んでいたよ!キレイに書けてた!才能あるのかも!
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疲れた。
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まあ人生いろいろ、専門学校もいろいろ、お店もいろいろである。
そして私はこれからコーヒーではなくバーボンソーダを呑む。断章形式はダラダラと長くなりすぎていけない。
ではまた明日。
<追記>
12年8月28日 リンク切れをウェブアーカイブで補完。冒頭部分のコンサル屋の記事が消えてたので探してみたら、どこかの会社の一事業部となって名前も変わっていた。
すかいらーくが運営していたジョナサンは、すかいらーくもろとも創業家の手を離れ野村プリンシパル→ベインキャピタルと経営権が移動し、今では外資系となっている。
デニーズは07年9月にセブン&アイ・ホールディングスの外食部門の再構築にともないセブン&アイ・フードシステムズの一部となって上場も廃止された。
たかだか6年で諸行無常を感じさせるのが変化の激しい外食産業というものか。
しかしこのエントリの中でも「ダメ!ゼッタイ!」はリンク切れを起こしていなかった。麻薬・覚せい剤乱用防止センターに揺るぎなし。これはこれで悲しいことである。
流行りすたりに関するエントリなのでこのように時代を感じさせる部分もなくはないが、カフェ学科はますます隆盛なようだし、大筋ではあまり変わってないような気もしますね。