コメ先物、来月8日開始=東穀取、関西商取(時事通信)
東京穀物商品取引所と関西商品取引所は12日、農林水産省の試験上場認可を受けたコメ先物取引を8月8日に開始する方針を決めた。近く機関決定した上で、正式に発表する。これにより、国内で72年ぶりにコメ先物が復活する。
両取引所は、取引システムの準備や関係者への情報周知に時間が必要などとして、認可を受けた時点では9月20日開始の方針だった。しかし、活発な取引を実現するには、スタートを今年産米の収穫最盛期に間に合わせることが必要との姿勢に傾いた。(2011/07/12-08:30)
取引開始まで1ヶ月もない。「取引システムの準備や関係者への情報周知に時間が必要」だったはずがなぜ突然「スタートを今年産米の収穫最盛期に間に合わせることが必要」に変わったのか。ほんの10日ほど前まではいつ収穫されるか知らなかったのだろうか。奇妙な話である。まさか8月8日がお米の日(Wikipedia)だからではないだろう。1730年に江戸幕府が世界初の先物取引市場である大坂・堂島で取引許可を出した日本商品市場の象徴が、太平洋戦争突入前の1939年に軍部による統制経済の強要により潰されてから72年ぶりに復活するのだ。決して失敗できない悲願のコメ先物を、「米という字は分解すると八十八になるから」なんて理由で制定された記念日に合わせて始めるなんて正気では考えられないから。
なにしろ時間がない。制度の詳細もまだ確定していないのに20数日後に生産者や卸問屋がヘッジのために大挙取引を始めるものだろうか。当初開始予定の9月20日ですら難しいだろう。先物取引銘柄は「小さく生んで大きく育てる」などというものではない。市場参加者は「取引が活発だから取引する」のであって、流動性の低い銘柄を値の飛ぶリスク覚悟でわざわざ取引したりはしないのだ。特に当業者はリスクヘッジのために先物取引を利用するのだから、先物を使ったために余計リスクが増えるようなら取引するはずもない。だからこそ最初が肝心なわけで、広報や関係業界への根回しを十分に行なった上で満を持してスタートするのが当然なのだ。時間稼ぎのために先送りするならまだしも前倒しするとは、本当にどうしたわけだろう?監督官庁からの要請とかならまだわかるが(それならそれで大いに問題だけれど)、取引所は「収穫最盛期に間に合わせるため云々」と言っているわけで、自発的に前倒しにしたというのだ。わけがわからない。
第一、コメ先物は価格決定権を奪われたくない農協・農林水産省から目の敵にされているのだ。早速農協のプロパガンダを担当する新聞は、反コメ先物キャンペーンを開始し、あることないこと書いた記事を掲載、2年後の本上場徹底阻止の構えを見せている。しかしどこからツッコんだらいいのか迷うようなひどい文章だ。たかだかこれまでどおり政府からのつかみ金が欲しいだけなのに、よくも「正義の戦い」なんてことが言えたものだ。「正義」という言葉を臆面もなく振りかざすような輩には最大級の警戒をするのが世間知というものだが、この知恵は正しいと改めて確信させられた。
こんなプロパガンダだけではない。コメ先物を失敗させるにはどうすればいいだろうか。卑怯かつ姑息な連中ならきっとこうするだろう。先物価格をを釣り上げ「ほら、主食が投機の餌食になって皆さんが食べるお米の値段が上がりましたよ。けしからんでしょう。こんなことやめさせましょう」と。コメ流通の6割を占める農協は巨大なインサイダーとして先物市場にどういう形で関わることを許されるのだろうか。農林中金の金がどこかを経由して仕手筋になることを防ぐ方策はあるのだろうか。これらのことが現時点ではなにひとつわからないのである。そしてあと1ヶ月にも満たないうちに取引は始まるのだ。
コメ先物市場の成否が判るのにそう時間はかからない。取引開始からせいぜい1ヶ月もすればわかる。もっといえば8月中にはわかるだろう。軍国主義に潰された主食の自由な売買が、21世紀も始まってからかなり過ぎてようやく復活する。たいへんな難産だったし、上場までこぎつけた関係各位のご努力に大いに敬意を表する。しかし、極めて残念なことながら、この待望の赤ん坊は生まれた途端に死んでしまうのではないだろうか。立ち上がることもできない赤ちゃんをを総力を上げて殺そうとする勢力がある。その力は政治力・資金力ともに強大だ。商品市場関係者がよほどうまく守らなければ、コメ利権共同体によってあっという間に殺されてしまうだろう。風前の灯の商品先物業界にそれだけの知恵と人が残っているだろうか。取引開始の前倒しというニュースに接し、不安は高まるばかりだ。