牛丼チェーン「吉野家」を展開する吉野家ホールディングス(HD)は17日の取締役会で、伊藤忠商事が保有する吉野家HD株をすべて買い取ることを決めた。伊藤忠は吉野家HDに20・1%を出資する筆頭株主。伊藤忠側から株式売却の申し出があり、自己株の取得で対応することにした。吉野家HDの取得価格は約140億円になる見通しで、買い取り資金としてみずほ銀行など主要取引先から70〜80億円の融資を受ける。
吉野家HDは17日の終値(10万5900円)で、18日午前8時45分の東京証券取引所の自己株式立会外買付取引で買い付け注文する。伊藤忠は買い付けに応じる意向で、吉野家HD株を放出する理由について「人的交流や取引関係も確立しており、株式保有の目的は達成できたため」と指摘。取引関係は今後も継続することを強調している。
伊藤忠は2000年に約230億円を投じ、それまで吉野家の経営を支援していたセゾングループから株式を取得。食材の取引拡大や店舗展開などで連携してきた。
ただ、吉野家HDは、本業の牛丼チェーン事業でライバル各社との低価格競争が激化しており、業績の低迷が続いている。吉野家HDは、経営の独立性を高め、機動的な事業展開を進める方針。
端的に言うと「吉野家の筆頭株主である伊藤忠があきらめて手を切った」ということだ。230億で買ったものを10年経って140億で手放す。伊藤忠経由で食材を仕入れさせたりして口銭を取っていたわけだし配当もあったから丸々90億円損したわけではないが、やはり失敗には違いない。経営を立て直す算段でもあるのなら大口取引先でもあるし保有し続けたろうが、業績が向上する見通しが立たない以上手を引くしかないという判断だろう。失われたカネはすっぱり忘れるしかない。
<参考>吉野家10年チャート(対数)

「08年から株価は下落の一途をたどり」と解説されると、「なるほどリーマンショック関連で」と勘違いしかねないが、実際は08年年初から下がり続けているわけだから、9月に起きたリーマンショックとは無関係である。
07年12月12日の当ブログで「吉野家はかつてのエクセレントカンパニーから、単に図体のでかい外食グループになりつつある。株主も頭が痛かろう」と書いた。総合商社のリソースをもってしても業績悪化を食い止められなかったわけだから、筆頭株主の伊藤忠が最大の損をしたのはやむを得ない。しかし少なからぬ株主が望んでいただろう「伊藤忠主導による経営改革」の目がなくなったのは残念なことだ。牛丼店単体からステーキ・寿司・うどん店等を擁するグループ経営へ、牛丼単品経営からBSE騒動を経てのメニュー拡充へ。会社更生法から経営を立て直したカリスマ経営者は、この大改革を立案したものの実現に失敗したことは明らかだ。経営戦略の大幅な変更に伴う経営陣の刷新が求められていたにもかかわらず、伊藤忠はそれをやらなかったのかできなかったのか、ともかく体制が変わらぬまま10年の時が過ぎ、結局放り出すことになった。
現在またしても牛丼の安値競争が繰りひろげられていて、競合の松屋は240円という過去最低価格を提示している。しかしこういったトピックに目を奪われがちだが、吉野家の経営に関しては(再三の指摘になるけれど)価格面での競争がうまくいかないことよりも、子会社が赤字を垂れ流している害の方が大きい。ステーキのどん(旧フォルクス)を買収するのに百数十億円を費やしたにもかかわらず赤字を止められないのが代表だが、子会社の出血を止めなければ牛鍋丼で多少客数が増えたところで焼け石に水なのだ。
終わりなき「企業買収→失敗」のくり返しを誰かが止めねばならないはずだが、吉野家は銀行から7、80億円借りて筆頭株主と別れ、「経営の独立性を高め」るのだという。これからも吉野家の漂流は続くということなのだろう。