2010年10月31日

サイゼリヤ、ファストフード業態開発を事実上断念

今日のデイリーポータルZでヨシダプロ氏が、多摩のショッピングセンターにあるサイゼリヤEXPRESSのことを記事にしている。レジは無人でお客がタッチパネルで注文、代金はATMのような機械に入れる。会計が終わった頃には商品受け渡し口で店員に呼ばれパスタを受け取るというスピード仕様。店員がせいぜい2人もいれば運営できるという超省力型システムである。

デイリーポータルZ:日本に数軒しかない驚異のサイゼリヤ

ところがこの記事、実に間が悪かった。10月26日にサイゼリヤはこのファストフード型店舗からの事実上の撤退を発表しているのだ。

サイゼリヤ、ファストフード縮小、バーガー店閉鎖、低価格パスタ1店に(日経流通新聞)
 サイゼリヤはファストフード事業を大幅に見直す。2011年8月期中にハンバーガー店からは撤退。低価格のパスタ店も1店まで縮小する。05年から主力の「サイゼリヤ」に次ぐ事業としてファストフード事業に参入していたが、現状では多店化が難しいと判断。大幅に事業を縮小した上で、再度メニューの開発や効率的な運営に向けた実験を進める。

 ハンバーガー店の「イート・ラン」と低価格パスタ店の「サイゼリヤEXPRESS」を見直し対象とする。
 同社の堀埜一成社長は「新業態はいったんリセットして、担当社員も入れ替える」と表明。競合が厳しいハンバーガー事業は当面あきらめ、パスタ店に絞って収益が見込めるモデル店づくりを再び進める。
 パスタ店も複数店運営してはモデル店づくりが難しいため、現在の5店を1店まで減らし、メニューの再選定、調理法の研究、効率的な運営方法などを探っていく。
 イート・ランはハンバーガーやタコスを主体とするファストフード店として2005年に1号店を東京都北区に出店。3店まで店舗を広げたものの、想定の売上高を確保できなかったため、2008年に1店まで縮小していた。
 一方、サイゼリヤEXPRESS は2007年に東京都八王子市内のショッピングセンター内に1号店をオープン。客がレジでタッチパネルでメニューを選び、会計も済ます独特のセルフレジを導入して運営を効率化し、価格は100円台からと低く設定した。しかし、想定通りの売上が得られていなかった。

創業者である正垣泰彦氏はテーブルサービス業態であるサイゼリヤだけでなく、ファストフード業態へ進出することを繰り返し表明していた。「フォーマットが固まったら10000店の出店を目指す」と気持ちいいぐらい大風呂敷を広げてもいた。それがイート・ランはあきらめ、サイゼリヤEXPRESSは申し訳程度に1店舗残すということだから、これは新社長・堀埜一成氏による事実上のファストフード業態開発断念と解釈すべきだろう。

BNPパリバ証券と契約したあまりにも馬鹿げたデリバティブ取引により140億円もの損失を出し、正垣氏は社長を退任。09年2月に味の素出身の堀埜氏が社長に就任した。就任から1年半が経ち、本格的に新社長色を出しはじめたというところか。この発表を受け、野村證券はサイゼリヤのレーティングを2から1に引き上げた。

サイゼリヤ(7581) 野村証券で2→1。海外は成長への布石が着々(日本証券新聞)
 野村証券は10月27日に低価格のイタリア料理チェーンのサイゼリヤ(7581)のレーティングを「2」→「1」に格上げし、目標株価も1,840円→2,000円に高めた。
 中期1株利益成長率は年率12%と外食セクターの7%より高い。
 新規出店による規模の拡大、生産物流体制の見直しや店舗の生産性向上策を進めることで持続的な成長ができると予想。
 2011年8月期は65店舗を出店し、2012年8月期以降も毎期60店の新規出店を見込む。17県で未進出であり、新規出店余地は大きい。
 中国を中心とする海外事業(2010年8月期期末で65店舗)、2011年8月期に50店を出店予定。現地で店長クラスの人材育成が進んでおり、現地スタッフによる店舗開発力が強化されたことで出店数が増える見込み。
 2011年8月期は海外関係会社への増資やカミッサリー(食品加工・流通工場)の建設など今後の出店加速へ向けた基盤作りが進むだろうと予想。

いつまでも利益が出る見込みの立たない新規事業への投資よりも、現在の経営基盤をより拡大する施策が評価されるのは、アナリスト的視点からは当然のことである。「外食産業」というくくりでテーブルサービスもファストフードも似たようなものだと思われるかもしれないが、実際の運営はまるで違う。店舗開発・コスト構造・プロモーション等々なにもかもだ。共通点は扱う商品が食べ物だということぐらいだろう。結局、海のものとも山のものとも知れない新業態にいつまでも拘泥してはいられないが、創業者の顔を立てて1店舗だけ残して開発継続の形は取っておきましょうということだと思う。イート・ランのハンバーガーはけっこうおいしかったし、なによりタコス不毛の地・日本でタコスを普及させようと意欲を燃やしていた正垣氏を私は応援していた。残念である。

企業というのは、個性的な創業者が退任し、こんなふうに成熟していくものなのかもしれないな、と思う。それが決して悪いことではないということも。08年11月21日にデリバティブによる大損が発覚した折、私は「もしかしたらこの出来事はサイゼリヤにとって重要な転換点になるかもしれない」と書いたが、実際そういうことになるのだろう。少しずつマトモな、少しづつつまらない、そんな存在になっていくことが「大人になる」ということなのかもしれず、それは人間も企業も同じなのかもしれない。

<関連>イート・ランに行ってきた
posted by kaoruww at 19:31| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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