本件は上場企業の株式公開買い付けという公共性の高い出来事であると同時に、今後の証券取引ルールのあるべき整備を考える上でも多くの示唆に富む。したがって誰がどのような行動を取ったか、また取るべきであったかといった考察を深めることは充分な公益性があると考える。
あるテレビ局は、2006年01月16日にドンキがオリジンに対してTOBをかけたことが発端であるかのような報道をしていたが、それは事実ではない。実際には2005年8月11日に始まったことである。まとめて時系列で見られるように新たにカテゴリを作った。記者会見に現れなかった人物が真のキーマン、いやキーパーソンであることもわかるだろう。
なお筆者はオリジン東秀株式会社、株式会社ドン・キホーテ、イオン株式会社のいずれの株式も保有していないことを付記しておく。
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ドンキの不可解な行動の理由
2月15日にドンキがオリジンの株式を30.92%から46.21%買い増したと発表した時、なぜ私がそれまでドンキがオリジンを諦めると思っていたかという理由を2つ書いた。完全に敵対したため今後のオリジンの経営が極めて難しいこと、TOBに応じれば多額の利益を得られることの2点である。結果だけを見ればその理由は当っていたように思う。同時に書いた、ドンキが本当にオリジンを経営する気があるのかどうかという疑念も含めて。
ただ、ドンキは社会的規範を求められる上場企業とは思えない姑息な方法で立場を強化した。それが事態を混乱させた。「姑息」とはイオンのTOBに対しカウンターオファーを出すわけでもなく、こっそり市場で株を買い集めたことを指す。言い換えれば先方の既存株主へ十分な情報を開示しないまま他社の経営権に関与しようとしたわけで、本来なら当然禁じられているはずのやり方である。しかし現在の日本は転換期特有の、新たな思想に制度が追いついていない状況だ。
具体的には「新自由主義」という弱肉強食の方向性に舵を切ったことは明らかなのに、法律はまだこの思想に対応していない。結果、意識的に脱法する人間にとっては極めて活動しやすい国になっている。おそらく読者の頭には最近大きな話題になった人物のことが浮かんでいるだろう。
不可解なのはここからだ。
46.21%もの株を手にし、翌16日には上場廃止懸念からオリジンが310円(10.03%)安の2780円になったにもかかわらず、ドンキは最終的に47.82%しか保有していない。オリジンに売りが殺到したのだ。買おうと思えば安く買えたのだ。だが、買わなかった。「子会社化を目指す」と言っているのに。50%を保有すれば支配できるのに。私はその頃、すでにドンキのオリジン株保有比率は50%を超えているのではないかと思ったのだが、ドンキ側からの「50%は超えていない」という声明を聞いて奇妙に思っていた。
「次世代型コンビニを作るために惣菜事業を強化したい」などという言葉を真に受けるわけにはいかない。口ではなんだって言える。なにしろ店舗が連続放火されて死者が出た時、ドンキ会長は記者会見の席でご冥福を云々と言いながら数珠を持って泣いて見せたのだが、眼からは涙は一滴も流れていなかった。こういう人間の考えていることは、言葉は一切聞かず行動だけから判断するほかない。
なぜドンキは十分オリジン東秀株の50%を確保することができるのにしなかったのか。
それは「子会社化を目指す」と言いつつも、実際はイオンに株を売るつもりだったからだ。50%を取れば言葉通り子会社化が実現してしまい、イオンに株を売るわけにはいかなくなる。理屈としては50%を超えて買い進み、そののちにイオンのTOBに応募することも可能だが、これだけ多くの株を持った状態で下手に動くと相場操縦の疑いで利益の返還を求められる可能性が出てくる。
8月に創業家から株を買った時からどこかに転売しようと思っていたのかどうかはわからない。ただ、イオンがホワイトナイトとして登場した1月30日以降の買い増しは、イオンのTOB価格3100円という「出口」があってのものだ。3100円未満で買えれば利益が出るし、株数が大きくなれば手を上げているイオンとの交渉もやりやすくなる。それだけのことだったのだ。
ただ、「ドンキとイオンが事業協力で合意」などとあるが、実のところ今後大した成果が出るわけではないだろう。イオンの岡田氏もドンキが言うところの「次世代型コンビニ」とやらの開発とは別の話だと記者会見で明言している。ここでも読者はある事例を連想するだろう。ラジオ局の株式をテレビ局にプレミアム付きで売却し、事業面での提携交渉を行なう、というアレだ。実際にはほとんど実のあるものはなかった。「事業協力を検討」はグリーンメーラーの口癖である。
ロクな仕入れ先を持たないドンキに、イオンのトップバリュやウエルシアストアーズのサプリメントといったプライベートブランドの商品を供給するぐらいが関の山だろう。これならイオンにとっても多少は販路も拡がるわけだし、きちんと金さえ払ってもらえれば済むのだから乗れる話だ。だが、大規模な共同開発案件などはないだろう。「事業協力」のアリバイ作りとしてイオンモールが開発するショッピングセンターに入居するような話はあるかもしれないが、いずれにせよドンキが「取引先」としてイオン側に発注するようなものだけで、リスクやリターンをシェアするような関係にはならないと思われる。ドンキにとっては57億円(会長保有分を含めれば65億円)といわれる利益を得る大義名分さえ立てばよいのだし、イオンにしてもこんな会社に深入りしたくはなかろう。
真のキーパーソン
明治大学全学連で学生運動をしていたオリジン東秀創業者の故安澤英雄氏は、「食」のあり方を提案することで農業を変え、社会変革を目指したという意味で、最後の最後まである種の革命家であったのだろうと思う。安澤氏は小さな中華料理屋を開いてから上場するほどの惣菜チェーンを築き上げる過程で、自らの事業が一つの運動であることを自覚し(「国民の基準食を作る」などという構想は単に金儲けするだけなら不要だ)、自分が死んだ後もその運動を確実に続けていく体制を作っておきたいと願ったのだろう。
その手立てこそ、いなげやで惣菜部門のトップを務めていた山崎泰弘氏の招聘だった。しかしそれは「かまどの灰までウチの物」と思っている近親者には「血よりも理念を優先させた手ひどい裏切り」と感じられたかもしれない。
いなげや出身の優秀な幹部が増え、単に「創業者の息子だから」という理由で社長にすることはできなくなった。ならば、資本と経営を分離できるのが株式会社制度の利点なのだから大株主として経営を監視すればよいものを、何を思ったかいきなり創業家は保有株を叩き売ってしまった。それも最悪の評判の立っている会社へ。
仮にも夫が、父が心血を注ぎ、文字通り命を懸けて作り上げた会社だ。なんとか故人の遺志を継ぐ形で発展させたいと思うのが近親者の願いというものだろう。しかしこの家族はそうではなかった。
保有株に対しドンキが一番高値をつけたから、あるいは昨年8月の段階ではドンキしか欲しがらなかったからという経済合理的な判断によるものだったのかどうかは部外者にはわかりかねるが、少なくともこれまで安澤氏が築き上げてきたものを根本から破壊し、故人の遺志を踏みにじる選択をしたことは間違いない。
ある経済誌は「創業家と現経営陣との内紛」という観点から「これは亡くなった創業者が望んだことだろうか」といった書き方をしていた。しかしよく考えてみれば、残された創業家がダメージを与えたかった相手は確かに表面的には現経営陣であったかもしれないが、本質的な意味では創業者その人ではなかったろうか。むしろ「創業者が望まないこと」をしてやりたかったのではないだろうか。
我が子を社長にすることよりも、高邁な理念の実現に没頭した夫に対する怨念、そして復讐。これが一連の出来事のすべての発端ではなかったかと思えてならない。
そして最も身近にいるはずの家族に理解してもらえなかった男の無念を想わずにはいられない。
おわりに
第一報を聞いたときの喜びは消え、今はむしろ怒りの感情の方が強い。
私は敵対的買収を否定するものではないし、むしろ過剰に株主が軽視され続けてきたこの国においては無能な経営者を放逐するためにもしばしば使われるべき手段だと思っている。またそれが経営の緊張感を高め日本企業全体の競争力を底上げする一助になるだろうとも考えている。
ただ、今回のような私怨と脱法行為が組み合わさったような出来事に客の立場とはいえ巻き込まれることの理不尽さを感じるし、もっと言えばさほど高くもない時給で立ちっぱなしで忙しく働いているパート・アルバイトの人達の心情を思うと余計に腹が立つ。
明け方、仕事を終えオリジン弁当の前を通りかかるとあの黄色いポスターは消えていた。
いつもの風景に戻ったことで、本当に決着したことが実感された。
2006年02月25日
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