そのような「古き良き時代」なるものが本当にあったかどうかは藪の中だが、その東京タワーにまたひとつノスタルジー(もしくはうらぶれ感)を呼び起こすだろうニュースがある。1958年(昭和33年)のタワー開業以来営業を続けてきた「タワー大食堂」が12月31日に閉店するのだ。
紹介ページ(魚拓)に店内画像があるのだが、今どきこんな横長のテーブルにパイプ椅子なんて学食でしか見ないだろう。メニュー(魚拓)を見るといきなり出てくるのが「修学旅行・一般団体用メニュー」であることからわかる通り、ここは団体用、言い換えればお上りさん専用食堂なのだ。「タワーご膳 3150円」とか、こんなところに押し込められて喜んで食べる人も滅多にいるまい。いくら東京タワーに来るお上りさんたちだって、さすがにもう少し気の利いたところに行きたがるだろう。下にスクロールすると個人向けメニューも出てくるが、ナポリタンだカツレツだポークソテェー(原文ママ)だと、なんとも古色蒼然としている。このまま高度成長期の遺産として蝋人形のように永遠に封じ込めておいたらどうかと思うような代物だ。ついでに3Fにある蝋人形館の経営の心配まで藤田田(デンと発音してください)に成りかわってしたくなるではないか。丸に田の字がまぶしい。
東京タワーは、テレビ電波塔、前述のような高度成長期のシンボル、またゴジラに代表される怪獣を呼び寄せる施設といった役割も含め、半ば公的な存在として扱わてれいる。しかしここは純然たる民間企業である日本電波塔株式会社が経営していて、しかもバブル期に創業者の息子がゴルフ場開発に手を出し、経営危機に陥っている。
東京タワー、借金100億円のカタ 元社長が事業に失敗(朝日)
テレビ局からの電波料収入により返済は進んでいるようだが、00年から06年までに53億円返済したということは、今だに数十億の借金が残っているということだろう。そして悪いことに2012年春には墨田区押上に634mの東京スカイツリー(Wikipedia)が開業する。
Wikipediaの東京タワー・地上デジタル放送完全移行に、日本電波塔株式会社が
「放送局の電波料収入が途絶えた場合、観光収入だけでは経営は難しく取り壊しもあり得る」と発言している。とある。いってみれば脅しだ。今ですら団体客向け食堂を閉めねばならないのに、スカイツリーが開業したらどうなるか。観光収入が先細りの中、これからもなんらかの形で放送設備としての利用料が欲しい、それが無理なら財政支援が欲しい、どっちも無理ならアンタらの青春のシンボルは取り壊すしかないね、と言っているわけだ。
この「昭和のノスタルジー」を人質にしたチキンレースがどういう決着を見るかはわからない。スカイツリーの運用に関してはまだ未定なことが多く、事態が動くのはさらに何年もして、もろもろが煮詰まってからということになるのだろう。ただ、老人の発言権がむやみに大きいこの国では「ワシらの思い出を守れ」みたいな話があっさり通り、税金で鉄塔を維持するという冗談みたいな展開になっても、まったく驚くにはあたらない。
<参考>日本電波塔株式会社の有価証券報告書(有報リーダー)