2009年07月01日

中村屋インドカリーの思い出

子どもの頃、祖父はよく私を連れ出して、遊びに出かけた。当時は中野に住んでいたから、盛り場というと新宿ということになる。明治の終わりに生まれたわりにはなかなかハイカラな人で、当時はちょっと珍しいような店に連れて行ってくれた。今でもあるのだろうか、新宿駅西口さくらや付近に祖父行きつけのインド料理屋があった。祖父は「ほら、こうやってちぎってカレーにつけるんだよ」と、ちょっと自慢げに食べ方を教えてくれた。それが私のナン初体験というわけで、四半世紀、いやもっと前か、その頃はナンなんてほとんどの人は知らなかっただろう。たしかラッシーもそこで初めて飲んだのではなかったか。

東口にある中村屋も祖父のお気に入りだった。子どもだった私には骨付きの鶏肉が入ったインドカリーはちょっと食べにくかったし、ずいぶん辛く感じた。だが家庭で食べるカレーとはまるで違う味、ルーが入った銀色の奇妙な形の器、いくつかに仕切られた皿に乗った数種の薬味(ピクルスはあるのに福神漬が無いことが不思議だった)、さらにはウェイトレスさんに「お好みでこちらをどうぞ」と粉チーズまで持ってこられ、ちょっと大人になったような気がしたのを覚えている。


ふと思いたって、ずいぶん久しぶりに中村屋に行った。あまりにメジャーすぎるから、カレー好きの間で改めて話題になることは少ないかもしれない。平日昼下がりの店内は、ちょっと意外なほどお年寄りの一人客が多かった。昔から食べなれた味の、しかし一人でも安心して入れる店というのは、新陳代謝の激しいこの街では貴重なのかもしれない。

昔の経験というのはたいてい美化されるもので、だから今経験すると拍子抜けすることが多い。でも中村屋のカレーもといカリーは、今食べてもきちんとおいしく、老舗らしいおっとりした接客も含め、とても好ましい。「恋と革命の味」を謳う中村屋のHPにリンクしておく。


私を可愛がってくれた祖父も、6年前に亡くなった。90歳を過ぎての大往生だったし、あまり苦しまなかったことは救いである。こうして祖父とのよすがを偲ぶことができる店が今でも健在なのは、幸運なことなのかもしれない。
posted by kaoruww at 23:59| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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