東口にある中村屋も祖父のお気に入りだった。子どもだった私には骨付きの鶏肉が入ったインドカリーはちょっと食べにくかったし、ずいぶん辛く感じた。だが家庭で食べるカレーとはまるで違う味、ルーが入った銀色の奇妙な形の器、いくつかに仕切られた皿に乗った数種の薬味(ピクルスはあるのに福神漬が無いことが不思議だった)、さらにはウェイトレスさんに「お好みでこちらをどうぞ」と粉チーズまで持ってこられ、ちょっと大人になったような気がしたのを覚えている。
ふと思いたって、ずいぶん久しぶりに中村屋に行った。あまりにメジャーすぎるから、カレー好きの間で改めて話題になることは少ないかもしれない。平日昼下がりの店内は、ちょっと意外なほどお年寄りの一人客が多かった。昔から食べなれた味の、しかし一人でも安心して入れる店というのは、新陳代謝の激しいこの街では貴重なのかもしれない。
昔の経験というのはたいてい美化されるもので、だから今経験すると拍子抜けすることが多い。でも中村屋のカレーもといカリーは、今食べてもきちんとおいしく、老舗らしいおっとりした接客も含め、とても好ましい。「恋と革命の味」を謳う中村屋のHPにリンクしておく。
私を可愛がってくれた祖父も、6年前に亡くなった。90歳を過ぎての大往生だったし、あまり苦しまなかったことは救いである。こうして祖父とのよすがを偲ぶことができる店が今でも健在なのは、幸運なことなのかもしれない。