アイドルシーンというものが消滅したために、従来ならアイドルの枠で活動するはずの人がアーティストのフリをしなければいけなくなった。一般にガールズポップと称される。無理があるし、本人にとっても不幸なことだが、活動の場がないのだからしかたがない。正直このジャンルに詳しいわけではないのだが、以前なにかの拍子にYouTubeであるグループのPVを見た。名をハレンチ☆パンチ(略称ハレパン)という。おそらくこれだった。
急上昇JUMP↑
元気いっぱい系という感じだが、なにか弾けないギターを持たされたりフレームだけのメガネをかけさせられたりしているようで、「なんだか大変だなあ」という感想を持った。この曲は06年4月リリースなのだが、この時点ではPerfumeと差はなかったと思う。今客観的にデータを見ると、ハレパンはアニメのタイアップをたくさん取っていたから、むしろ上だったのかもしれない。ただ、どちらも世間的にはほとんど知られていなかったという意味で、同列だったといって差しつかえないだろう。
04年4月の結成から丸3年たった07年3月26日、ハレパンはアイドル路線からロックへの転向を表明、あわせてハレンチ☆パンチから80★PAN!に改名した。読みは「ハレパン」で同じ。このどうかと思うグループ名を3年も引っぱったこと自体が驚きだが、もう何かしないわけにもいかなかったのだろう。しかしこのグループ名ではシングルを出すことすらなく、改名にあわせてアルバムを一枚出しただけで終わる。そのアルバムの中の曲でPVが作られた。今はじめて見たのだが。
期待値シャイニング
このPVをupしている人は関係者なのかハレパンのみを上げていて、お疲れさまですと労をねぎらいたくなる。それはまあいい。しかし改名したにもかかわらず、なにが変わったのかよくわからない。ファッションが変わったのはわかるのだが。この非常に中途半端な路線変更は、リリース状況からいっても明らかに失敗だった。
そして07年10月にメガネの人が脱退、さらに08年4月、またしても改名。新しい名前は80_panである。読みは同じ。80★PAN!はたった1年の命だった。もう最初に失敗したネーミングにここまでこだわる必要もないと思うのだけれど。そして2人になっての新たな路線は、エレクトロポップだという。スタッフが意地でもいまさらテクノポップを名乗りたくない気持ちは、なんとなくわかる。新しいアーティストイメージはこちら。
あんただれ。中途半端なイメチェンでは意味がないのを悟ったはいいが、これはこれで振り幅大きすぎではないだろうか。右の人はちょっとみひろに似ているようだが、静止画マジックである。で、私がテレビで見たPVというのがこれだ。
I don't wanna go
付け焼き刃のテクノとはこんなにダサくなってしまうものなのか。ダンスといっていいのかどうかもわからないが、なんだか動きが気の毒な人という感じすらする。PVの製作者は「チープさを狙って」とか言うのだろうけれど、チープに前向きな意味が発生するのはかっこいい時だけであって、本当に貧乏くさくなってどうすると言いたい。
ここでWikipediaにハレパンがどう書かれているかを確認しておきたい。おそらくごく少数の人が、特にエピソード部分は一人の人間が書いたと思われる。トーンが同じだからだ。そのトーンとは、怒り、悲しみ、そして静かな諦念である。
・決めポーズとして「ウソをつく事やズルイ事やいい加減な事など、ハレンチな事にパンチする『ハレンチ☆パーンチ!!』」というものがあるが、「80★PAN!」へ改名したと同時に封印したと報道されている。もはや自虐に走るしかない彼の気持ちを思うと、門外漢の私まで悲しい気持ちになってくる。
・終わりの挨拶で、「以上、80★PAN!でした」と言うところを、改名後も「以上、ハレンチ☆パンチでした」といい間違えることがある。
・改名後も、ライブでの対バン相手から「ハレンチ☆パンチ」と言われることがある。
・2ndアルバムがヘヴィメタル/ハードロック専門誌のBURRN!2007年8月号のアルバムレビューコーナーに採り上げられる。アルバムの音楽性は従来よりもロック色は確かに強いもののHM/HR的な要素はほぼ皆無であり、何のために事務所サイドがレビューを希望したのか意図が不明であった。
・「80★PAN!」への改名の際、「今まで(ハレンチ☆パンチ)よりも大きなステージでやりたい」と願っていたが、改名後も伸び悩み、80★PAN!終焉期には、ハレンチ☆パンチ時代よりも客数が少なく、小さい会場で対バンをすることも多かった。Wikipediaだから客観的な記述を心がけなければと思っても、心に秘めた憤懣は隠すことができない。不愉快なら見なければすむことだが、ファンだからついしっかり見てしまう。そしてそのたびに腹が立つわけだ。なにか「いつまでも使えないメンバーを推すな」と怒ってばかりのモーヲタを彷彿とさせるが、彼らはまだいい。一度は陽の目を見たのだし、落ち目だという記事ではあってもまだ話題にしてもらえる。しかしWikipediaに書き込んだ彼は、まったく報われることがないのだ。もはや芸能界という荒海で、魯は流され、舵も壊れた。漂流を止める手立ては見あたらない。3人いた乗組員も2人になった。遠からずこの小船は渦潮に巻かれて木っ端微塵に四散するだろう。そんな強い予感を抱えながらも、彼は応援をやめることができない。ファンというのはなんと悲しい生き物だろうか。
・結局のところ、80★PAN!は方向性を見出せぬままほぼ一年で改名と路線変更する事となり、CDも改名当初発表したアルバム一枚のみで新曲のリリースもなく、公式サイトのトップは前述のアルバムが2007年6月6日に発売する旨の告知のまま一度も更新される事はなかった。
・改名の発表が限定ライブだけであったため、該当ライブに参加しなかったファンは、何の説明もないまま、公式サイトの更新で突然の改名と路線変更を知る事になった。
あらためてPerfumeがなぜ奇跡といわれるかを思う。こういうファンの想いは、まず報われることがないからだ。応援していたグループが、いつの間にかひっそり解散していたことに気づく。ちゃんとしたさよならも言わないままに。そんな経験を繰り返し、人は煤けた大人になっていく。あるいは遠巻きに見つめるウォッチャーとなっていく。私のように、とは言うまい。みんなそうなのだ。だからこそサンストリート亀戸で応援していた人は祝福されるのである。あの時買った1枚のCDが、アミューズの「もう広島に返そうや」という決断を鈍らせたのではないか、彼女たちの露命をつなぐ一滴の水になれたのではないか、そう思えることはめったにない幸せなのだと、我々は知っているからだ。
私はWikipediaに書き込んだ彼に言いたい。君の想いは決して無駄ではなかったのだと。君はかけがえのない時間をグループとともに過ごし、意義ある経験をし、しっかり伴走したのだと。もちろんこれは全部気休めだが、そうでも言ってやらなければあまりに気の毒すぎるではないか。
あした80_panのニューアルバムが発売されるのだという。彼には、最後まで悔いなく伴走しきってほしいと思っている。
ターズアームストロングでしたっけ…
そんな肩書きはイヤだ。
今、解散LIVEが始まった頃でしょう。