2011年12月20日

牛丼業界の新しい挑戦者、東京チカラめしに行ってきた

居酒屋業界の売上げのピークはバブル崩壊直後の1992年、市場規模は1兆5千億円だったといわれる。
その後不景気と飲酒人口の減少を背景に緩やかに下がり続けてきた売上げは、2002年6月の道路交通法改正で飲酒運転の罰則が強化されたことにより大幅に落ち込むことになる。ハンドルキーパー運動なるものの効き目もむなしく、クルマを使って来店することが前提の郊外型居酒屋は大きく売上げを落とした。
さらに今年の震災発生後は宴会需要が大幅に減り、計画停電に営業時間の短縮とさらに追い打ちがかかった。外食業界の中でも居酒屋は特に売上げの減少が著しい。現在、居酒屋業界の売上げは1兆円を割ったとみられる。しかしそれでもオーバーストアが解消されたわけではなく、今後10年間でさらに2千億円減り、8千億円規模に縮小するというのが大方の見方だ。

タイトルと違って牛丼の話がまるで出てこないが、必要な部分なのでもう少し待ってほしい。

ここ20年で3割以上売上げが減り、今後もさらに減るのは確実という業界で企業はどのように対応しているか。ワタミは店舗を減らして、市場の拡大が続く介護事業に乗り出した。たいへん儲かっているらしく結構なことである。この事業は政府が採用する政策により業績が大きく変わるため、今後創業者は都知事選の落選など気にせず、ますます政治に近づいていくことだろう。

他業界へ進出せず、外食業界の中で事業ドメインを変えようという企業もある。都内で急速に店舗を増やす「東京チカラめし」を展開する三光マーケティングフーズがそれだ。91年に「東方見聞録」で個室居酒屋ブームを起こし、03年に株式を公開、その後デフレ環境に対応した低価格業態「金の蔵Jr.」を展開している。今年3月1日に公開されたインタビューでは「低価格居酒屋とうどんを2本柱に」と、金の蔵Jr.と丸亀製麺のパクリ業態・楽釜製麺所を中心にしていくことを明言していたが、その後「日常食業態の拡大」を強調し6月に東京チカラめしを開店、来年6月までに100店舗達成をブチあげた。

もともと東方見聞録というヒット業態がいきなり成功したわけではなく、1975年に神田駅のガード下に定食屋「三光亭」を創業、その後牛丼とカレーの店に業態転換してから居酒屋へという沿革なので、焼き牛丼とカレーを主力とする東京チカラめしは、いわば牛丼業界への再挑戦といえる。すき家・吉野家・松屋の牛丼御三家が芸のない価格競争を繰り返す不毛地帯に割って入ろうと、価格は同程度・煮るのではなく焼き牛丼という新機軸で殴りこんできたニューカマーの登場を歓迎する人は多い。「ウチの近所にもできないか」と期待している人もいるようだ。

確認になるが、当エントリの目的はB級グルメの印象批評をしたいわけではなく、多くの公開情報のひとつとしてストアコンパリゾンを行い、当該企業の市場競争力ならびに今後の企業価値の変化についての考えを述べることである。味の善し悪しと企業としての成功は全く関係ないとは言わないが、あまり関係ない。これがチェーンストアを見続けてきた私の感想だ。なにしろ脱法ばかりしている反社会的企業ゼンショーが外食業界売上げ日本一になってしまう国だ。私の食べ物の好みなど開陳しても仕方がない。

さて、この先行者利益もなければ残存者利益もない、日本で一番激しい競争が起きている血で血を洗うレッドオーシャンに、なにが悲しくて三光マーケティングフーズは殴りこんできたのか。社長の弁によると「牛丼屋は今や日本社会のインフラ」なのだという。そうかもしれない。日本人が米を好む限り回転寿司と牛丼屋はなくならないだろう。これまでどおり肉が格安で安定的に輸入できる環境が続くという前提つきでだが。しかし居酒屋の経営経験があればファストフードが経営できるというものではない。居酒屋で許されることがファストフードでは許されない。

東京チカラめしに行ってまず感じるのは、店舗オペレーションの低劣さだ。本社は人を集めていろいろがんばっているのがよくわかるのだが、それらのことも店舗段階ですべて台無しになるという状態。煮てある肉を丼に載せるから素早く提供できるわけだが、焼くとなると時間がかかる。これがネックであることは当然認識されている。開店当初、提供に10分以上かかるケースが常態化しファストフード店として完全にオペレーションが破綻している状態だったというが、先日私が行った時には3分〜4分に短縮されていた。最終的には1分以内を目指しているという。時間帯による見込み生産の精度も上がるだろうしそれはいいのだが、いかんせん商品のクオリティが低い。松屋で金属のヘラに体重を乗せて鉄板を磨いているのを見かけるが、ああいう面倒なことをしないからか粉々になった黒いコゲが肉全体にまぶされ、脂ギトギトの状態で出てきた。看板商品がこれではお話にならないだろう。

少し時間をおいてもう一度行った。ここは松屋や吉野家同様、カレーライスも出している。350円で味噌汁付きというのはまったく松屋と同じだ。注文したところ、出てきたカレーには具が全くない。なにか肉が粉々になったような痕跡はあるが、少なくとも固形物といえるようなものは一つもない。どうもメニューを見るとココイチのように具をトッピングすることを前提にしているようだ。バランス的にルーに具がない方がいいということかもしれない。しかしこの店でカレーを食べる客が比較するのはカレー専門店ではなく松屋なわけで、そこにいきなりルーのみカレーを出されるとけっこう驚く。これに関しては本社サイドの問題かもしれないが、では店舗段階でなにが起きるか。その具なしのルーがぬるい。外食でカレーを何度食べたかなど覚えているはずもないが、カレーのルーがぬるいのはさすがに初体験だった。鍋であたためっぱなしのものをご飯にかけるのが普通なわけだから、むしろどういうやり方をすればぬるいカレーを出せるのかに興味が湧く。

ストアコンパリゾンの場合、味が好みでなくても全部食べないと量に実感が湧かないから必ず全部食べることにしているが、さすがにこれは半分で席を立った。ちょっと耐えられない。私の隣の客は、店員が皿をバッシングした後にテーブルを拭かないので「ちょっとここ拭いてください」と言っている。もはやファストフード店として秒単位の精度の高いオペレーションができているかどうかをチェックするのも虚しい。

2度とも吉祥寺公園口店での話だが、不備なマニュアルがあるのだろうから特定の店舗だけレベルが低いとは考えにくい。また、仮に特定の店舗だけの問題だったとしても、チェーンストアの最低水準すらクリアできないとなるとチェーン全体に対してそういう見方になるのは仕方がない。はっきり言って、縮小を続ける居酒屋業態の穴埋めとして来年6月までに100店舗だ、再来年には300店舗だなどと言っている場合ではないと思う。財務はしっかりしているから店は借りられるし人も集まる。金さえ払えば店舗網は広げられるし、それなりに売上げも立つだろう。しかしこんなボロボロの状態で、頭打ちの売上げや下がり続ける利益水準を埋めるために出店していたら、開店当初の物珍しさと期待はすぐになくなり、前年割れの不振チェーン店ができるだけだ。


厳しいことを書いたが、価格競争ばかりでお客もうんざりしている牛丼業界に焼き牛丼という新機軸を持ち込んだことで、新しい競争を起こしたことは評価している。同じ土俵で勝負し埋没する愚を避け、弱者の戦略を採用したのは賢明だった。しかし6月に東京チカラめしが開店した後、松屋は9月に「ネギ塩豚カルビ丼」を発売。さらに吉野家が12月に従来の煮る豚丼を廃止し「焼味豚丼 十勝仕立て」を投入。さっそく同質化競争による企業防衛をはじめている。だから呑気に構えてもいられないが、かといってデタラメなオペレーションのまま店舗を増やすのは自滅への一本道である。店舗での作業の見直し、トレーナーの確保、メニューの手直し等々多くの施策が求められるが、3強の中に割って入ることができるかどうかは今後にかかっている。

結論としては、三光マーケティングフーズの「日常食業態の拡大」路線の成否は不透明。現在株主でない人は手出しせず、既存株主には慎重にウォッチ継続を勧める。



<追記>三光マーケティングフーズに関しては自己資本比率75.0%と、ゼンショーの15.6%とは比べものにならないほど財務体質が良く、PBR1倍割れでもあり、あまり冒険的な出店をしない限り株価の下値は知れているともいえる。問題はすき家を展開するゼンショーだ。M&Aで規模を拡大し有利子負債を積み上げてきたゼンショーは、金利が上昇すれば利払いは増え、財務を充実させようと増資をすれば株式の希薄化で株価は下がるという隘路に陥っている。徹底した独裁制を敷く創業者は独裁者のご多分に漏れず身内しか信用できず、1977年生まれの息子を取締役に引き上げ、ますます北朝鮮化が進んでいる。今後予想されるゼンショーの転落については、また改めて書く機会もあろう。
posted by kaoruww at 22:49| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする